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WAVE WEAVE ― 音と織物の融合
[世界初公開]
- 会期
- 2025年11月13日(木)-2026年3月8日(日)
- 開館時間
- 10:30–18:00
(祝日・年末年始を除く、入場は閉館の15分前まで)
- 入場料
- 無料
- 会場
- HOSOO GALLERY
元禄元年(1688年)、京都・西陣において創業以来、革新的なテキスタイル制作に取り組むHOSOOは、世界的に活躍するアーティスト、カールステン・ニコライ(Carsten Nicolai)とのコラボレーションによる新作インスタレーション「WAVE WEAVE(ウェーヴ・ウィーヴ)」を公開します。本展は、映像作品《WAVE WEAVE》と織物作品《SONO OBI》という二つの相互に関係する作品で展開されます。
カールステン・ニコライ(1965年旧東ドイツ・カール=マルクス=シュタット(現ケムニッツ)生まれ)は、世界的なトップアーティストであると同時に、坂本龍一との数多くのコラボレーションでも知られるアルヴァ・ノト(Alva Noto)として活動する電子音楽家です。旧東ドイツの織物産業の中心地に生まれ育ったニコライは、1940–60年代に制作された1,000点以上の織物の紋意匠図のコレクションを所有するなど、長年、織物の技法や、その起源に強い関心を寄せてきました。
西陣は、古来より特権階級のための絹織物として発展し、今日に至るまで世界でも稀有な精密さと多種多様な技法を継承する産地として知られてきました。19世紀初頭、フランスでジョゼフ・マリー・ジャカールが発明した自動織機「ジャカード織機」は、従来の人力の織機に代わり、複雑な文様の制作を飛躍的に発展しました。明治期、西陣の職人がリヨンからこの織機を持ち帰ったことで、西陣織は日本の染織産地の中でもいち早く技術革新を遂げました。
この紋意匠図に対応するパンチカードによって、経糸を自動制御する仕組みは、後のコンピュータ技術の基盤ともなった歴史があり、織物が「デジタルメディアの原点」とも言われる所以です。そして現在、HOSOOでは約20工程にもおよぶ西陣織の各製造課程において、デジタルを活用した技術革新の可能性を開発研究しています。ニコライは、西陣織における伝統技法と西洋の現代的な技術の融合に注目すると同時に、「織機は宇宙創造の象徴であり、個々の運命が織り込まれる構造体である。多くの文化において、時間そのものが織られてきた」と述べています。織物が時間を内包する媒介的存在であることから強いインスピレーションを得て、今回の斬新な新作の制作を行いました。本展は、以下の2作品で構成されます。
《WAVE WEAVE》
HOSOOの織物工房内の風景や織機を中心に、ニコライ自身のディレクションで考えられる限りの緻密さで織物のディテールを実写撮影・編集し、オリジナルの電子音響をシンクロさせた短編映像作品です。織物の制作工程を抽象的に捉えた映像と音楽で構成し、織機の経糸・緯糸が交差するバイナリーのメカニズムから、織物に内包されるアルゴリズムや時間性を可視化するだけでなく、織物や、それに用いられる素材が生成される景観そのものを、詩的で静謐な反復と差異の映像/音響の世界として描き出します。HOSOOの織物技術を最大限に応用したオーディオ・ビジュアル・インスタレーションです。
《SONO OBI》
電子音楽をソノグラム(超音波によって得られるいわゆるエコー画像)に変換し、それを織物として構築することで制作された作品です。原理的には、視覚的に音楽を表現するだけでなく、織物から再び音にデータ変換することができます。すなわち、織物をアナログの記録媒体として音楽を保存し、後に演奏を再演することを可能にしています。この独自の楽譜解釈により、従来の楽譜が旋律や構成に重点を置くのに対し、《SONO OBI》は音そのものの質感を多様に織り込んだ作品になっています。実物の「帯」でもありながら音楽のアーカイブでもあり、音楽表現の新たな地平を開きます。
本展において、電子音楽と物質である織物を、有機的かつデジタル技術の視点で結びつけることにより、視覚、聴覚、触覚などの多様な感覚を横断する新たな音楽表現を提示します。こうして生み出された2つの新作インスタレーションは、伝統と革新を往還しながら、染織文化を現代的なアートとテクノロジーの視点から再考する手がかりとなることでしょう。300年以上にわたり西陣織の伝統を受け継ぎながら革新を続けてきたHOSOOと、音と織物という2つのメディアを探究するカールステン・ニコライの出会いによって実現した本展は、音楽と工芸という人間の創作の原点とも言える活動を通じて、歴史と未来が刺激し合う創発の場を生み出します。
アーティスト・メッセージ
HOSOOとの協働は真にインスピレーションを伴う体験でした。このような長い歴史を持つ織物の伝統に出会い、制作チームが新しい芸術的アイデアを探求する開放性と、伝統文化が融合することで、このコラボレーションのためのユニークな基盤が生まれたのです。私は長い間、織物と織物技術に魅力を感じてきました。それは特に、私の故郷ケムニッツの歴史が織物産業と深く結びついているからでもあります。この生涯にわたる関心を、HOSOOの熟練の技との対話に持ち込むことは、自然な作業であり、同時に大きく報われるものでした。
《WAVE WEAVE》と《SONO OBI》において、私たちは、織物についてだけでなく、知覚、音、そして非物質的構造に対して、実際に触覚可能な形にする翻訳を作品として生み出したのです。このコラボレーションが成長し続け、私たちの作品が伝統と革新、工芸と技術、そして最終的に人と人との間の架橋となることを願っています。
カールステン・ニコライ
PROFILE

カールステン・ニコライ
1965年 旧東ドイツ、カールマルクスシュタット生まれ。2015年よりドレスデン美術大学デジタル&時間芸術メディア教授。ベルリンを拠点とするアーティスト/音楽家で、視覚芸術、科学、音を横断した活動をおこなう。数学的なシステム、エラー、自己組織化などの概念を参照し、芸術ジャンルの境界を拡張し続けている。主な展示に、「ドクメンタX」(1997年)、「ヴェネツィア・ビエンナーレ」(2001年、2003年)。大規模個展として、フランクフルトシルン美術館、ベルリン新国立ギャラリー、ハウス・デア・クンスト・ミュンヘンなどがある。アルヴァ・ノト(Alva Noto)の名義では、電子音楽の第一人者として国際的に活躍し、坂本龍一をはじめとするアーティストとの多数のコラボレーションを展開。坂本との共作である映画『レヴェナント:蘇えりし者』の音楽は、ゴールデングローブ賞にノミネートされた。
主催:株式会社 HOSOO COLLECTIVE
協力:Studio Carsten Nicolai、Gallerie EIGEN+ART Leipzig/Berlin
ゲスト・キュレーション:阿部一直
展示監修:井高久美子
ディレクション:細尾真孝
宣伝美術:森田明宏
プロジェクト・マネージメント:渡部里奈
令和7年度日本博 2.0 事業(補助型) (独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁)
