RESEARCH

Quasicrystal

「Quasicrystal」

対談「準結晶(QUASICRYSTAL)と織物」  井高久美子(キュレーター)×古舘健(アーティスト)×細尾真孝

井高久美子(キュレーター)×古舘健(アーティスト)×細尾真孝(ディレクター)

井高:QUASICRYSTALというタイトルと、このプロジェクトが織物という世界で、何に挑戦、あるいは探求しているのかについてお聞かせください。

古舘:織物には「平織」「綾織/斜文織」「朱子織」という三原組織と言うものがあります。平織は一種類しかなくて、綾織は数種類あり、朱子織になるともっといろんなバリエーションがあります。布というのは、基本的にはこの三つの組織の組み合わせによってできている。また、布を作る段階で、布において繰り返される一つの単位、最小限のユニットを「完全組織」と言い、それをベースとして織物はできている。それによって糸がうまく絡むようになっているわけです。コンピュータを使う場合、完全組織を解体し、糸が経と緯で交差して面になっていくその最小限のルールだけをピックアップし、そのルールだけで何か布を織るという作り方ができるんじゃないかと。ですが、完全組織だけで布を構成しようとすると、細かさが制限されてしまう。たとえば、横幅200本の経糸が通っている布地があるとするならば、完全組織の経糸が5本でできているとすると、200÷5で40分割しかできない、40個の単位でしかパターンをコントロールできない。だけども、それをコンピュータによって経と緯だけで交わるということにしてしまえば、もっと細かく有機的にデザインが組めるはずだというアイデアがまずはありました。そういうふうにして、これまで歴史的に作られてきた完全組織という考え方を、コンピュータを使って解体して再構築する、ミニマルなところからコンピュータなりの布の織り方、ルールというものを作り直すということを試みました。

「QUASICRYSTAL」は準結晶という意味です。結晶というのは、金属の構造がきれいに碁盤の目のように繰り返されている状態であり、それは並進対称性と言って、ずらしていくと必ず重なるんですよ。だから、組織的にずっと繰り返されている。それに対して非晶というのは全く秩序がないような状態です。具体的には、結晶は鉄などで、非晶は水とか、固形で考えればガラスです。ガラスは結晶構造がないんですね。

それらに対して準結晶とは何かというと、ある秩序はあるんだけれども並進対称性がない、ずらしていっても重ならない、ミニマルに見れば規則正しい構造があるんだけどもマクロに見ると規則性があまり見出せない、そういうようなものです。

HOSOOさんが普段織られている織物は、完全組織をベースに作られている「結晶的」なものだと思うんですね。安定した組織があって、それが並んでいる。それに対して僕らが作ろうとしているのは準結晶的なもの、完全組織を使わずにまた別の新たな秩序を作り出すものだと思っています。

井高:「布のデミウルゴス」(山口情報芸術センター、2017年)の作品制作の際に、ランダムで織ってみたけど出来たものが美しくなかった、人間が有史以来、何千年ものあいだ作られてきた完全組織はやっぱり美しいという壁にぶつかったというお話をよく覚えています。

古舘:そう。まずコンピューターで布を織るというときに、実際にプログラムを書いてみて、それで布が織れるのか確認の意味も込めて織ってみようと、まずはランダムで織ってみたわけです。まだどんなアルゴリズムを使えばどんな布が織れるのか分かる前だったので、まずは手軽にできるランダムで布を織ってみようとしたわけです。ところが、それでやってみたら全然面白くなかったわけですよ。出来上がったものと、実際にプロダクトになっているHOSOOさんのコレクションと見比べてみて何が大事かと思ったら、やっぱり秩序なんですよ。平織というのは最強なんです。ミニマムに布の機能性を突き詰めていったときに、どこにたどり着くかといったら、やはり平織なんだという気がします。ミクロにみていくと、経と緯とが一対一に絡み合っている。それはもう必然じゃないですか。その完成された何かに対して何ができるんだろうと考えついたのが、朱子織のような組織をベースにして、そこに変数を足してちょっとずつずらしていく。既存の秩序をベースとして、それを変化させていくというのがはじめの手法でしたね。「QUASICRYSTAL」を3人のアーティストを招いてやるという段階で、ほかにもまた別の手法が出てきているんですけども、これが僕のファーストステップでした。

井高:まずは何らかの秩序が必要というところから準結晶の概念が導かれたということですね。あと、「美とは何か」というのが細尾さんのずっと持たれている関心事であり問いかけだと思うのですが、それがまずは美しくないものを作ることによって見出されていくというプロセスがあるというのもこのプロジェクトのなかで感じたことでもあります。美を探求していくというのがHOSOO GALLERYなりHOSOO STUDIESのミッションにあるのですが、美とは何かという問いに関して、いまの段階で細尾さんがこのプロジェクトのなかで考えておられることがあれば、感想を一言添えていただければ嬉しいです。

細尾:古舘さんもおっしゃっていましたが、織物の世界では、やはり一番最初は平織なわけです。有史以来、そこから徐々に身体的なものになり、綾織や朱子織が出来てきたんだと思うんですけれども、そういうある種方程式のようなものに基づいて何千年もかけて美というものが作られてきたわけです。これは、ひょっとすると西洋音楽でいう12音階のようなものかもしれません。先ほどの古舘さんの最初の試みのお話は、音階を無視してランダムに打ってみたら、音痴あるいはただのノイズになってしまったということだと思います。ただ、そこも面白くて、当然いま気持ち良いと思う音階もあるんですけども、雅楽のように、12音階とは違う美もあるわけです。ですから、音楽には12音階、織物には完全組織があるなかで、まだ人類が見つけていない美もあるんじゃないか、そこを探求していきたいと考えているわけです。とはいえ、何千年もかけて出来上がった結晶的な美というのは素晴らしいものがありまして、古舘さんのアプローチはそれをベースにしながらずらしていくことで新しいものを見出していくというようなアプローチでしょうし、ほかの方々もそれぞれ違う視点でアプローチされている。そこにおいては、やはりわれわれ織物に携わっている人間としては、西洋でいう12音階のなかでどう技を磨いていくか、そして新しいものを作っていくかというのに近年ずっと終始していたような気がします。西陣織の歴史を見ましても、やはりジャカード織機で技術革新を起こしていたりはしますが同じ延長でやってきていた。そういう意味では、ジャカードからコンピュータが生まれ、そこから生まれたプログラミングや、その最先端のものをもう一度織物に戻してやることで、この何千年のなかで生まれてこなかった美、その方程式を見つけることができないかというのが、このプロジェクトの探求の一番のポイントかなと思います。

All photos by Kotaro Tanaka
本稿は『HOSOO Magazine More than Textile – Issue 1 Ultimate Beauty』(2021)より転載したものです。